1、怖い・難しい・危ないばかりではない相続の側面

　コロナ禍が収まらないなかですが、お盆ともなれば親族間でコミュニケーションを取る機会も増えたことと思います。そういった機会を捉えてか、経済雑誌等ではここ数年のこの時期の特集として相続ネタを取り扱うことが恒例になっているようです。

　その特集の中で最新の立法動向やトラブルの事例などが取り上げられることもあり当職もよくチェックしています。またネット上の相続関係の記事も内容をざっと確認したりします。

ただ見ていて少し思うのが、トラブル事例やネガティブな情報が多いなぁということです。

　確かに手続きが非常に複雑かつ面倒な事案が増えていますし、財産の分配をめぐってトラブルになるケースが珍しくないためやむを得ないとは思うのです。しかし絶対的な数をみるとトラブルになるケースは少数で、多くの相続はトラブルなどなく処理されているはずです。

　統計でも、最近の死亡者数は130万人・140万人という数字になってきていてその数だけ相続も発生しているはずなのですが、紛争として裁判所に持ち込まれた件数は1万件程度にとどまっています。亡くなる方の中にはほぼ手続不要な方も沢山いらっしゃるでしょうし紛争といっても裁判所まで持ち込まれるのは限られた件数に過ぎないとは思いますが、それでもこれほど数字が開くのです。なので8割9割の相続は問題なく終了すると考えて、「相続！」と言われてもあまり身構えずに落ち着いて話をすれば大丈夫と思っていただければと思います。

　相続手続きの場面で、全く知らないまたは没交渉となってしまっている相続人の方々の連絡・調整が必要となるケースが増えています。ご兄弟の多い家庭で複数の方が故郷を離れているケースなどで、その存在を知らない甥・姪にあたる方が相続人となることが増えているのです。

　こういったケースの処理として多いのが「法定相続分で分配」や「相続放棄」となるケースです。このうち相続放棄のケースでは「これまで無関係だった方の遺産を頂くわけにはいきません」と仰る方も多いです。例え数百万～数千万円の財産についても「もっと交流のあった方で引き継いであげてください」といって放棄されるケースは珍しくなく、こういった場合は紛争にならないです。

　また法定相続となるケースでは、疎遠な親族間の連絡交渉が復活したり知らなかったご先祖様の情報共有が発生したりといった場面を見ることもあります。業務からは外れるのですがせっかくの機会ですのでご要望が整えば仲立ちをさせていただくこともあり、少し良いことをした気になれたりもします。

　ということで、相続とは別に怖いことや困ることだけではなく、人が亡くなるという大きな出来事を機に良い人間性に触れる機会も少なくないということはお伝えしたいなと思います。